猫パルボウィルス感染症

猫パルボ

猫汎白血球減少症(ねこはんはっけっきゅうげんしょうしょう)、猫パルボウィルス感染症、猫伝染性腸炎、FPV(:Feline Panluekopenia Virus)、FPL(:Feline Pan Loicopenia)、FPLVとも表記されますが、皆同じ病気を指します。
非常に感染力が強く、また死滅させる事が難しいウイルスとして知られています。猫パルボは人にも犬にも感染しませんが、犬パルボの2型と呼ばれるものは人に吐感染しなくても猫には感染するそうです。

症状について

以下の症状は同時に起こる事が多く、一般的で特徴的な症状として、激しい嘔吐や下痢、血便、発熱、元気・食欲の低下、白血球の減少が見られます。

また発症した猫を見ていて感じた事は、水を飲まなくなるという事です。嘔吐の症状の所為かと思われますが、お水を飲みたいと思っているのに、飲めない… そんな様子で水入れの前に佇んでいる姿を見かけました。

①腸管を攻撃された場合ウイルスによって腸の粘膜が破壊されると腸炎を起こします。
腸の粘膜は3日から5日ぐらいで細胞が新しく入れ替わりますが、その新しく粘膜を作る部位の細胞がパルボウイルスによって攻撃されるため、細菌から体を守りながら栄養を吸収する粘膜を作れなくて、病原菌が腸壁から入り込み、ひどい嘔吐、下痢、血便、脱水症、敗血症、栄養失調などの症状が起こります。

②骨髄を攻撃された場合ウイルスが骨髄の造血機能に悪影響を与えれば、病原体から体を守っている白血球数が急激に減少します。
そうすると、免疫力が著しく低下して様々なウイルスや細菌の二次感染を受けやすくなります。
他に、妊娠中の雌猫が感染すれば、流産や早産の原因になったり、出産後、子猫が症状も出さずに急死する事もありますし、小脳形成不全で神経障害を起こす事もあります。

感染経路

発症した猫の体内からは、ウイルスが大量に排出されます。嘔吐物や便には特に大量に、そして唾液や鼻水にも含まれます。

これらのウイルスを口から体内に入れた場合に、経口感染を起こします。

またこれらのウイルスは、接触感染で色々な場所に運ばれます。
人の手や足、靴底を通して遠く離れた場所にウイルスを運んでしまう事が多々あります。
小さな虫等によって運ばれる、間接接触感染も十分あり得ます。

一部ではパルボウイルス感染症は空気感染すると言われていますが、厳密にはこれは間違いです。
例えば酷い嘔吐や水下痢で、ウイルスが飛沫感染する事は考えられますが、空気中にウイルスが無数に飛散していて空気の流れに乗って移動するということはありません。

注意しなければいけないのは、人や動物がウイルスを運んでしまう可能性が高いという事だと思います。

隔離期間

保護されてすぐの猫さんは、どんな感染症を隠し持っているか分りません。感染症にはそれぞれ潜伏期間というものがあります。

それを考慮して、猫の幼稚園は基本、2週間を隔離期間としています。
パルボウイルス感染症の潜伏期間が、2日〜2週間と言われているからです。

ただ、個体の状況によってもっと長く隔離期間を設けることもあります。

新御堂筋で保護されたろっかは、大腿骨骨折でしたので、骨頭切除の手術をしました。
手術前後の入院期間を経て猫の幼稚園に入園しましたが、その後パルボウイルス感染症を発症。

小豆島のピースハウスさんで保護されたわかめも、保護してすぐに入院治療し、退院後暫くしてから猫の幼稚園にやってきて、その後パルボウイルス感染症を発症。

どちらも保護されてから二週間以上の時間が経って発症しています。
日頃の衛生管理を鑑みて、また前後にワクチン未接種の子猫達が入園していて、なんの症状も出していない事から考えて、猫の幼稚園内での感染は可能性が非常に低いと思えます。

なので、入院治療した際にウイルスが抑えられた可能性も考えられるので、特に保護後入院治療した猫さんは、退院後も一ヶ月近く隔離する様にしています。

検査

動物病院で取り扱う簡易検査キットは、犬パルボ用のものです。
その為どこ迄正確に判定出来るか疑問が残ります。

実際に私の知人が保護した猫さん二匹は、一匹が下痢をした為通院、通院途中にもう一匹がキャリーで便をしたので、その糞便を用いて犬用簡易検査を行ったところ陽性と出ました。
ところがその後の症状に疑問が残り、猫の幼稚園で預かって信頼出来る病院に入院させ、抗原検査と血液検査を実施したところ、白血球数は14800と15000、抗原検査はどちらも陰性と出ました。

この実例からは

1.パルボ感染と断定された二匹は、一度もパルボに感染していない。犬用検査キットの正確性を疑わざるおえない。
2.二匹は確かにパルボに感染したかもしれないが、症状も軽く早い段階で治癒した。
なので感染した個体からのウイルス排出期間は、2週間程だと考えられる。


1.のケースなのか、2のケースなのか、正直私には分りません。
獣医師さんの一人は1のケースであるとの考えですが、他の獣医師さん達は違うかもしれません。
怪しいと感じる際にはまず血液検査で白血球の数値を確認し、正常値の5500〜16000より下がって、特に1000以下であればパルボを疑い即治療を始めます。
外部検査機関に糞便を提出し病原体そのものを検出する検査をする場合、又は血液を採取して行う抗体検査を実施すると、どうしても日数が掛かります。確定診断を待っていては初期治療が遅れてしまいますので、仮定診断により迅速な対応が求められます。

★追記 2013年6月のパルボ発生により、猫の幼稚園では新規入園の際に必ず遺伝子検査を実施することにしました。
半年の間に70匹の猫達を検査した結果、驚く程パルボ陽性結果が出ていますが、すべて「l隠れパルボ」でした。
野外株のパルボウイルスは至る所で蔓延していると考えられます。外猫に関わる方、保護をする方、共にご注意下さい。
「隠れパルボ」についてはぜひこちらの記事もご覧下さい。「知って欲しい、隠れパルボのこと」

消毒除菌

まず、消毒という言葉を正しく理解しましょう。
・消毒とは…病原体より毒素だけを取り除くこと
・除菌とは…病原体を取り除くこと
・殺菌とは…病原体の生命力を破壊すること
・滅菌とは…病原体そのものを完全に除去すること

「殺菌」という効能をうたえるのは、薬事法により国に認可されたものだけになります。

パルボウイルスの厄介な点は、アルコール等の消毒除菌が全く効かないことです。
パルボウイルスに対して効果のある消毒としてよく知られているのは、アンテックビルコンS。
サーズ騒動でまたその効能が見直されています。

手軽なのは塩素系消毒。
商品名だとキッチンハイターが有名です。
原液を32倍希釈して床掃除等に利用します。猫の幼稚園では毎日一度はこれで床掃除します。
注意点は換気に留意すること、拭き掃除の際は、30分放置すれば二度拭きはなしでOKです。
大量に作った32倍希釈液は、8時間経つと効能がなくなります。
スプレーボトルにいれて噴霧するのは、あまりおすすめではありませんが、どうしてもというならばマスクやゴーグルで防備して、人にも猫にも掛からないように注意して下さい。

猫の幼稚園ではこれらの消毒剤よりも、アクアリブとバイオウィルクリアを多用しています。
猫の幼稚園の室内では、次亜塩素酸主成分の除菌水アクアリブ噴霧器が三台、常時稼働しています。 
普段は5倍希釈のアクアリブをスプレーボトルに入れて、いろんな場所やものの除菌消毒に利用しています。

ただ、ワクチン未接種の子猫が大勢、入れ替わり立ち代わりやってくるシーズンや、園児がパルボウイルス感染症の疑い、又は発症した場合には、アクアリブだけでは心許なく、二酸化塩素を元にした除菌液バイオウィルクリアを多用します。

アクアリブもバイオウィルクリアも、人にも猫さんにも安全な除菌が手軽に出来るので大変重宝しております。

猫の幼稚園を訪問する皆さんには、必ず玄関にてアクアリブ噴霧器の霧を浴び、バイオウィルクリアで消毒をして頂いています。
帰る際にも同じ様にして消毒しますし、玄関に脱いだ靴はこちらで靴裏を消毒させて頂いております。

保護活動していれば、いろんな感染症と無関係ではいられないという危機感を持って、日々対応する事が大事だと思います。

発症したら

感染拡大を防ぐ為に

感染猫さんが出た場合、パルボウイルスの脅威に頭の中は真っ白で泣きたくなる様な状況に陥りますが、まずは冷静になって、感染拡大を防ぐ事を目標にしましょう。

保護した猫さんがパルボを発症した事自体は、致し方ない事です。
でも不用意に感染を広げてしまうのだけは、絶対に避けたいものです。

猫の幼稚園ではまず、発症した猫さんと発症前後に触れ合った方全てに緊急連絡を廻します。
それぞれのお家やお世話する猫さんの健康に注意して観察して頂く事や、場合によっては主治医の診断を求める事等、パルボ対策についての一連の連絡を廻します。

授業参観やお見合い会等対外的な活動は全て中止し、主要メンバーは猫飼いさんとの接触も極力避ける様にして、自主的に活動凍結して園外部への感染拡大を防ぎます。

この活動凍結期間は最低二週間。
他の猫さんへの二次感染がないことを確認してから凍結解除します。

感染が起こった場合の対応

入院治療は当然ですが、小さな病院ではパルボの動物を診察してくれないことがあります。
病院によっては、一般外来の時間外に来て欲しいと要望される事もあるでしょう。

病気の専門家である施設にとってもパルボウイルスは脅威なのです。

なので、パルボの疑いのある猫さんを診察に連れて行く際には、必ず事前に病院に連絡をして下さい。
受け入れられない病院ならその際にはっきりその旨伝えてくれますから、無駄な時間を費やさずに済みます。
受け入れてくれる病院に出向く際には、ペットシーツなど多めに持参しましょう。
またその猫さんだけでなく連れて行く人もウイルスに汚染されている訳ですから、出来るだけ他の患畜さん達と離れているのも大事な事です。
出来ればバイオウィルクリア等を持参して、ドアノブ等触れた場所にも配慮したいものです。

治療そのものは対症療法になります。
インターフェロンの投与、静脈点滴、抗生剤の投与、 嘔吐止め下痢止め。
発症して3日程で下痢嘔吐が止まれば、回復に期待が持てます。

次に、同居猫さんへの感染拡大を防止しましょう。
同居猫さんには速やかにワクチン接種して下さい。
老猫さんでワクチンを見合わせている場合や、もう既に発症猫と接触が合って感染が懸念される場合は、インターフェロンの接種が有効です。主治医とよく相談して行って下さい。

同時に家中の消毒を行います。
消毒だけでなく物理的にウイルスを洗い流す・除去するという発想も大事です。

発症した猫さんの使っていたベッド等消毒が困難なものは、全て捨ててしまう事をお勧めします。
その際はゴミ袋を二重にする等の対策を施して下さい。

消毒は発症した猫さんが移動した経路を中心に、また発症した猫さんと触れ合った人がウイルスを運んでしまうという事を念頭に置いて、家中を徹底的に消毒して下さい。

回復期の猫さんへの対応

入院治療の甲斐合って、無事退院する程に回復出来た猫さんはとても幸運です。
ただ二次感染防止の為に細心の注意は必要です。

パルボウイルス感染症を克服した猫さんは、自身に強い抗体を持ちます。
その為今後パルボウイルス感染症で重篤な状態に陥る事はないでしょう。

ですが治癒後数週間は、体内からパルボウイルスを排出しています。
なので排出されたウイルスにより二次感染が起きない様に、注意が必要となります。

具体的には上記にある「発症した場合の対応」と同じです。

ですが、回復期にある猫さんが、数週間、毎日ウイルスを排出する訳ですから、そのウイルスを他にまき散らさない様に注意が必要なのです。

なので回復期の猫さんは数週間から数ヶ月、状況を見乍ら隔離する事が望ましいでしょう。

猫の幼稚園でのろっかのケースでは、年末にろっかが退院してきてから一月末まで、ケージで隔離しておりました。この頃はまだ隔離室と呼べるものがなく、ケージの周りをプラダンで囲み、ケージ越しでも容易に接触できないように工夫し、またケージのある部屋そのものも、極力他の猫や人が出入りしないようにしておりました。

退院直後はペットシーツを利用していましたが、下痢等の症状がないので、トイレは一般のトイレを使用するようになりました。勿論こまめな掃除は欠かせませんし、その前後には周囲も含めてバイオウィル等で消毒除菌します。

ろっかの隔離の際、ビニール製のカッパを数着用意しました。ろっかと触れ合う際には必ず着用します。一般の衣類よりも消毒が容易です。使い捨ての手袋も重宝します。部屋の中では専用の室内履きを使いました。そしてなによりも、こまめな拭き掃除を行います。塩素系消毒剤で拭き掃除した後、時間をおいてバイオウィルクリアを散布する方法でした。

ウイルスはその猫さんの皮毛にも付着しています。
出来れば体調を見てお風呂に入れて洗い流す事が望ましいでしょう。
シャンプーが難しい場合は、バイオウィルクリアやアクアリブを使って皮毛を綺麗にしてやるといいでしょう。
これはシャンプーと違って手軽なので毎日行いました。

※2013年9月より、バイオトロール配合の除菌剤・シャンプーを導入。
 新入生やパルボウイルス回復期の猫さんには、パルボ対策に有効な成分のシャンプーを用いています。

最後に

毎年沢山の猫さん達がパルボによって命を落としていますが、ワクチンで予防出来る病気でもあります。
どうかぜひワクチン接種の必要性を見直して下さい。

パルボを克服した猫さんは本当に強運の持ち主です。
確かに回復期にはウイルスを排出するので、二次感染防止に勤めなければなりませんが、それもたった数週間、早くて1ヶ月、長くても3〜4ヶ月の事です。

どうか最後迄諦めずに、感染猫さんも未感染猫さんも守り抜いて下さいね。

隠れパルボ※重要な追記

2013年6月のパルボウイルス感染症について

この年のパルボウイルス感染症は、強毒性カリシウイルス感染症が併発し、猫の幼稚園と関連ボランティア宅で数多くの猫が感染・発症し、
結果多数の猫さんが命を落としました。

このケースでは、
・隔離期間を終了した後、発症した保護猫さんが感染源
・症状がないが、ウイルスを排出していた保護猫さんが感染源(猫の幼稚園では「隠れパルボ」呼んでいます)
(野外株に暴露されていたが、自己免疫で発症しないままウイルス排出期間に保護されたケース)の
どちらか、もしくは両方が考えられます。

この実例を受けて、2013年8月からは、保護して10日を目安に、
パルボウイルス感染症の遺伝子検査を実施すること。
その後一回目ワクチン接種・猫白血病猫エイズのウイルス検査実施とします。
子猫の場合は糞便による遺伝子検査、その他は血液による遺伝子検査とし、
信頼性に問題があるので犬用簡易キットでの検査は不可とします。
遺伝子検査の結果がでるのは3日〜7日後。その間は隔離期間延長となりますので、
実質隔離期間は2〜3週間必要になります。


ワクチンはとても大切だけれど、体調管理の為にまだワクチン接種できない場合や、幼すぎてワクチン接種できない猫さんが多数いる環境では、感染症を蔓延させない為に必要な処置だと考えます。


今回のパルボウイルスに感染したものの発症せず、ウイルス陽性となっただけの園児は
ゔぃら・あね・おと・しな・ななママ・くらすママ・ぐりーすの7匹。
7匹もの猫さんが、なんら症状を見せず、ウイルス排出だけはしているというのが事実です。

外猫さんや保護猫さんの中には、私達が思っていた以上に多数、ウイルスに感染しても自己免疫で発症しない猫さんが存在するのだと思い知らされました。

猫の幼稚園のように、色んな場所から保護されたきた猫さんが、多く生活する場所では、保護した猫さんがウイルス感染していたことは、致し方ないことです。
ですがその為に、他の猫さん達をウイルス感染症の脅威にさらすことは避けなければなりません。
遺伝子検査で隔離期間中にその有無がはっきりすれば、速やかに治療に入れますし、他の園児達に感染拡大することも水際で防げます。
費用は嵩み保護主さん・猫の幼稚園の負担は増えますが、これが最善策ではないかと考えます。


猫の幼稚園の園児で亡くなったのは、強毒性カリシウイルスで命を落とした子も含めて、
きじママ・長太郎・ちり・るな・ごえもん・こう・りん・こく・こあ・のき・きゅーり・てっか・ちーら・ぐれーす・くろすの15匹。
関係者のお家では猫の幼稚園よりワクチン未接種猫さんが多かった為、もっと多くの保護猫さんが命を落としております。

罹患して発症した猫達のうち、無事退院・克服できたのは、4つの動物病院30匹以上の猫さんの中でたった1匹、ごうのみ。
ごうは強毒性カリシの影響で右目の視力を失くし、パルボの後遺症で歩行にふらつきが残っていますが、ウイルス排出中の仲良し園児と一緒に、隔離室で毎日元気に過ごしています。
もう少しすれば、ごうも他の子達もウイルス排出も終わり、リビングに戻ってくるでしょう。
本当によく頑張ってくれたことを心から褒めてあげたいと思います。

最後に、身罷った全ての園児達の御霊が安らかでありますように。
合掌。

そして猫達を助けるべく、尽力して下さった動物病院の皆さんと仲間達に心から感謝致します。
今後同じことが起こらないよう、関係者一同一丸となって、最大限の努力を続けます。  
2013/9/2追記

追記
このパルボを乗り切った7匹のうち、秋にゔぃらがFIPで亡くなりましたが、他の6匹がそれぞれ素敵なご縁を頂戴し、とても幸せに暮らしています。
治療に尽力して下さった病院の皆さんと、支えてくれた皆さん、そして迎えて下さったご家族に心から感謝致します。